#novel イカカグ 恋人になってから唇に初めてキスする2人の話(1091文字) 逢瀬の夜、別れ際のイカカグです。 突発的に書いたSSなので、もしかしたら今後話を膨らませて中編にするかも ─────────────── 続きを読む 「どうか、いい夢を」 別れ際、イカルガはそう囁いて、そっとカグヤの額に唇を重ねた。 指先も息づかいも、いつものように優しい。 けれど、その優しさがどこか遠く感じられて──カグヤの胸が、そっと痛んだ。 あたたかいのに、寂しい。 触れているのに、届かない。 そんなもどかしさが喉にひっかかり、言葉にならない息が漏れる。 唇が額から離れていくその瞬間が、あまりにも名残惜しくて──カグヤは、袖を握りしめた。 「……足りないです」 小さくこぼれた声は、夜の風に溶けていく。 「それだけじゃ……足りないです……」 もっと、ほしい。 手を伸ばせば触れられるはずなのに、ぬくもりはまるで霧のように、指の間をすり抜けていく。 「カグヤ……」 戸惑いを含んだイカルガの声が、静かな空気を揺らした。 「唇には……だめ、ですか?」 息をのむような声で問いかける。2人はまだ、唇同士の口付けはしたことがなかった。カグヤの言葉にイカルガはわずかにたじろいだ。 「だ、だめなわけでは……。ただ……」 小さく息を吐き、顔をそらす。 目元に影を落としながら、ぽつりとこぼした。 「……歯止めが効かなくなりそうで」 その言葉に、カグヤの目が大きく見開き、次の瞬間、頬が、耳の先までみるみる赤く染まっていった。 「構いませんから……して、ください……」 自分で言いながら、胸の奥が熱くて落ち着かない。 対してイカルガは何も言わず、じっと見つめるだけ。 月明かりに照らされたその瞳には、戸惑いと──確かに、熱が宿っていた。 「あなたを、傷つけてしまうかもしれません」 「傷つけてください……。私は、イカルガさんにめちゃくちゃにされたいです……」 カグヤの言葉を皮切りに、空気が変わる。 まるで世界が、ふたりだけのものになったかのような。 お互いの鼓動が速くなるのを感じながら、肩越しに伸ばされた手が、そっと頬に添えられた。 「……目を、閉じてください」 低く震える声が、胸の奥を打つ。 言われた通り、そっと目を閉じると、すぐに──やさしい、でも確かなぬくもりが唇に触れた。 「ん……」 はじめは戸惑うように。 けれどすぐに、ゆっくりと、深く。 息を吸う音さえ愛おしく思えてしまうほど、すべてが満たされていく感覚。 顔が熱い。心がふるえている。 ドクドクと高鳴る鼓動が、もう抑えられなかった。 唇が、わずかに離れる。 けれど、まだ近い。 目を開ければ、すぐそこにイカルガの息づかいがあった。 「……イカルガさん、大好きです」 震える声でそう伝えると、イカルガは肩をすくめて小さく笑った。 「……私も、大好きですよ、カグヤ」畳む 2025.7.29(Tue) 19:32:13 龍ファク,イカカグ